【ニューデリー=永田和男、イスラマバード=佐藤昌宏】インド・ムンバイの同時テロ発生から10日で2週間。直後には印パ関係の緊張が懸念されたが、米国の介入もあって、パキスタンは事件の首謀者を含むとみられる過激派の摘発に着手し、インド側の対応にも自制が見られるなど、事態の急激な悪化は避けられる見通しだ。
インド政府は、同時テロは、パキスタン国内を拠点とするイスラム過激派「ラシュカレ・タイバ」の犯行と断定し、パキスタン政府の取り締まりが不十分として文書で抗議したほか、大物テロリスト20人の引き渡しも求めている。
パキスタン政府は、「証拠が不十分」として協力を渋っていたが、同国治安部隊は7日、インドと領有権を争うカシミール地方のパキスタン側中心都市ムザファラバード郊外にあるラシュカレ・タイバ施設を急襲、今回の同時テロの「首謀者」とされるザキウルレーマン・ラクビ容疑者らを拘束した。インド主要メディアによると、同国政府筋は、「前向きな一歩だ」と一定の評価を示している。
印パ間では、やはりラシュカレ・タイバが関与したとされる2001年12月のインド国会議事堂襲撃事件の後、02年年央にかけて、「核戦争寸前」と言われる緊張を招いた経緯があり、今回はその再現が懸念された。米国は同時テロ直後にライス国務長官を印パ両国に派遣し、インドには自制、パキスタンには捜査への協力を強く求めた。
パキスタンが過激派拠点急襲に出たのも、インドへの協力というより、ライス長官が「自国領内の過激分子の始末はパキスタン政府の責任」と迫ったのを受け、米国の顔を立てた側面が強い。パキスタンのクレシ外相は9日、AFP通信に「容疑者をインドに引き渡すことはない」と断言した。
インド政府はなお、引き渡しを強く求めていく構えだが、それでも、パキスタン領内の過激派拠点への越境攻撃や、カシミール地方での兵力大幅増強など、パキスタンを刺激する強硬策は避けている。8日開票のデリー首都圏など主要地方選で、与党国民会議派が、「テロの脅威」を強調した野党を抑えて勝利するなど、国民世論もおおむね冷静を保っており、強硬策を求める声が広がる気配はない。
同時テロ後は、日本など外国企業の間でインド進出を再検討する動きも急で、このうえパキスタンとの軍事的緊張を招けば、一層のイメージ低下は避けられない。パキスタン側も、国内治安対策や経済対策で手いっぱいだ。インドの戦略アナリスト、スバ・チャンドラン氏は、「容疑者引き渡しなどを巡る曲折は続くが、印パともいずれは、和平プロセスの維持を選ぶことになるだろう」と指摘した。
(2008年12月10日01時43分 読売新聞)



